short summary!
全称命題の証明は4手覚える.
1最大最小や不等式
2数学的帰納法
3剰余系
4背理法
はじめに
全称命題という言葉を聞いたことはあるでしょうか.
大まかに言うと「全」のイメージで,
「”任意の/全ての/どんな”nについて成立」
のようなセリフとして登場します.
今回はこの「全称」が絡んだ証明問題をどう解き崩していくかを学んでいきましょう.
もくじ
全称命題の証明
基本的に全称命題の証明は難しいです.
「全ての一桁の整数について示せ」なら0-9までの10個の数を代入してしまえば済む話ですね.
しかし,多くの場合において「全実数」や「全自然数」といった要素が有限ではないものを扱います.
当然全てを代入することは不可能なので別の方法を考えなければなりません.
- 最大最小や不等式の利用
- 数学的帰納法
- 剰余系
- 背理法
→「〜ではない要素の存在」を条件にしてみる
以上の4手が覚えるべきものです.④背理法は,①から③までを考えた結果進まなかった場合に考慮します.
それぞれについてお話ししていきましょう.
最大最小や不等式の利用
そもそも不等式の証明は全称命題の証明です.
「$x^2+3x+3>0$を示せ」
と言われればそれは
「(全ての$x$について)$x^2+3x+3>0$を示せ」
ということ.
このように,問題文に全称の言葉が明示されているとは限らないということに注意すべきですね.
証明問題を見たときに,それが「全称なのかどうか」「どの文字について全称で,どの文字について全称ではないのか」をしっかり考えることが非常に重要なのです.
そして不等式の証明でオーソドックスなのは最大値や最小値の利用ですね.
上の例なら左辺の最小値が正であることを証明できれば良いわけです.
これだけだと少々味気ないですので,もう少し踏み込んだ内容を以下の例題を用いて解説しましょう.
例題
この問題も全称命題です.「①を満たす任意の実数$x,\,y$について②であること」を示しましょう.
最大最小を考える上で,変数の個数を確認しなければなりません.今回は$x,\,y$の2変数です.
2変数の問題は「1文字固定をして1変数とみなす」というのがセオリー.
しかし今回は別の見方を紹介しましょう.2変数の動きを見るのは本来大変なのですが,一気に値域を追いかける方法があります.
それが領域図示.
1変数のものはグラフが書けますね.2変数のものは平面座標の上で領域として塗ることができるのです.
「①の領域ならば②の領域」と題意を言い換えれば,一々場合わけしながら最大最小や値域を求める必要はなくなります.
2変数の問題では領域図示を試すことを覚えておいてください.
例題解答
①②において,$x,\,y$にそれぞれ$-x,\,-y$を代入しても式が変わらないので$x\geq0,\,y\geq0$で考える.
さらに,$x$と$y$を入れ替えても式が変わらないのでこれらの領域は$y=x$対称であり,$y\leq x$で考える.このとき①②はそれぞれ
$2x<a$,$x+y<a$
となるので,対称性から①と②が表す領域を図示すると下図網目部のようになる.ただし,境界は含まない.
それぞれの領域は①②の式を満たす$x,\,y$の存在範囲を表している.①の領域が②の領域に完全に包含されているので,題意は示せた.
数学的帰納法
数学的帰納法は「任意の整数について」という問題では必ず証明法として思い出したい手法です.
数学的帰納法の種類や詳しい解説は別の記事に任せますが,基本的な構造は全て同じ「ドミノ倒し」です.
ドミノが無限個あったとしても
1.初めのピースを倒す
2.前のピースが倒れることで次のピースが倒れる(漸化式的構造)
の2つが示せれば,いつ倒れるかは知らないがいつかは全部倒れてくれる.
こうしたイメージを持って眺めてみれば,数学的帰納法はそこまで難しい問題ではありません.
全称の文字がたくさんあって,どの文字について数学的帰納法を使うのか迷ってしまう問題もあります.
小さい値で実験してみて,それを$n=k$→$n=k+1$に一般化することが大事です.
例題
まず,これは$n$に関する全称のお話です.文字が少なくて助かりました.
数学的帰納法を使う上で大事なのは$n=k$→$n=k+1$の部分.これが漸化式的構造だと述べましたね.
$a_{k+1}=(k+1)^3+5(k+1)$
$=k^3+3k^2+8k+6$
$=a_k+3k^2+3k+6$
これで漸化式が立ったわけですね.
$a_k$が$6$の倍数を仮定するので,残りの$3k^2+3k(+6)$が$6$の倍数であれば良い.
この問題に関しては数学的帰納法を用いるのは下手です.普通は考えませんね笑
多少無理やりですが,漸化式的構造を作ることができれば数学的帰納法が使えるということを確認しておきたかったのです.
例題解答
i)$n=1$のとき
$a_1=6$より題意は成立する.
ii)$n=k\ (k=1,\,2,\,\cdots)$での成立を仮定する.
$a_{k+1}=a_k+3k^2+3k+6$
であり$3k^2+3k=3k(k+1)$について$k,\,k+1$のいずれかは偶数であるため,これは$6$の倍数.
よって仮定と合わせて,$a_k$が$6$の倍数のとき$a_{k+1}$も$6$の倍数であることが示された.
以上i)ii)より数学的帰納法から任意の自然数$n$に関して$a_n$は$6$の倍数であることが示せた.
剰余系
整数は無限個の要素からなりますが「ある数で割った余りで分類」すると有限個のクラスに分けられます.
これが剰余系の考え方ですね.
例えば,3について剰余系を考えるのであれば,余りが$0,\,1,\,2$の3つのクラスに分かれます.
各クラスにおいて題意が成立することが示せれば,整数全体での成立が示せることになります.
剰余系と合同式に関しては「整数」の範囲として以下の記事にまとめていますので是非参照してください.
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整数の基本3:剰余系(合同式)
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例題
$6$の剰余系で考えても構いませんが,$2$と$3$に分けた方が多少は楽です.
倍数の話ですから剰余系なのは当たり前と感じるとは思います.
しかし,これも全称命題の証明としての側面があることを知っておきましょう.
例題解答
合同式の法を$2$とする.
i)$\ n\equiv 0$の時 $a_n\equiv0$
ii)$\ n\equiv 1$の時 $a_n\equiv6\equiv0$
次に,合同式の法を$3$とする.
I)$\ n\equiv 0$の時 $a_n\equiv0$
II)$\ n\equiv 1$の時 $a_n\equiv6\equiv0$
III)$\ n\equiv -1$の時 $a_n\equiv-6\equiv0$
以上より,$a_n$は任意の自然数$n$に関して$2$の倍数かつ$3$の倍数である.
$2$と$3$は互いに素なので,題意は示せた.
($6$を互いに素な2数$2,\,3$に分けたところがポイントです.
$12$の倍数であることを示すのに$2$の倍数かつ$6$の倍数とは言えないですね)
ちなみにこの問題なら連続3整数の積を用いるのが一番簡単です.
$a_n=(n-1)n(n+1)+6n$
まとめ
まず命題が「全称なのか」「どの文字について全称なのか」を判別する.
その上で
- 最大最小や不等式
→2変数なら領域図示を試す - 数学的帰納法
→漸化式的構造に注目する - 剰余系
- 背理法
の4通りの方法を考える.