short summary!
存在命題の証明は5手覚える.
1具体的に要素を挙げる
2中間値の定理
3平均値の定理
4部屋割り論法
5背理法
はじめに
存在命題は,名前の通り「存在」に関するもので,全称と対の関係にあります.
「”ある/適切な/適当な”$n$について成立」
「〜を満たすような$n$が存在する」
のようなセリフとして登場します.
今回はこの「存在」が絡んだ証明問題の解法を学んでいきましょう.
もくじ
存在命題の証明
存在証明は全称命題よりも分かりやすいと思います.
「存在」には「少なくとも1つ」という意味が含まれていますから,題意を満たすものを1つ見つけてくれればいいわけです.
しかし,難問になると簡単には見つからないものも多く,証明方法として
どこにあるのかはわからないけれどどこかにはありますよ
と言った大雑把な見つけ方をする場合があります.
- 具体的に要素を挙げる
- 中間値の定理
- 平均値の定理
- 部屋割り論法
- 背理法
→「任意の要素について〜ではない」を条件にしてみる
以上の5手が覚えるべきものです.⑤背理法は,①から④までを考えた結果困ってしまった場合に考えてください.
それぞれについてお話ししていきましょう.
具体的に要素を挙げる
これは先ほどにも書きました通り,
「存在」を示したければ1つ見つけてくれば良い
という考え方です.
一番大事な考え方であるにも関わらず,他のいろんな知識が邪魔して落とし穴になってしまうところ.
「ある$x$について$x^2+3x+1<0$を示せ」
と言われればそれは
「$x^2+3x+1$の最小値$<0$」
です.
とにかく$0$より小さい値を1つ見つけたいので,左辺の一番小さい値を挙げれば問題ないだろう,と考えるのですね.
全称とは違い,どの文字について存在命題なのかが明示されることが多いので,その点では分かりやすいかもしれません.
全称命題の記事で「2変数の問題では領域図示を試す」というお話をしたと思いますが,存在命題でも効果があります.
「①かつ②を満たすような変数$x,\,y$が存在することを示せ.」
という問題に対して,
「①と②の領域に共有部分がある」と読み替えればokです.
もっと言えば,①②の共有部分の適当な要素$x,\,y$を提示すれば存在証明として成立していますから,それでも問題ありません.
中間値の定理
中間値の定理は「連続関数における解の存在」を示す際に特に重宝する手法です.
$f(a)$と$f(b)$の間の値$c$を与えるような$x$が$a\leq x \leq b$に存在する
という定理です.
$f(a)$と$f(b)$の間を連続的に動くなら,通り過ぎたり戻ったり色々動いたとしても,図の赤線を超えてしまうよね,と言っています.
逆に連続でなければ,図の赤線をヒョイっと飛び越えて動くこともあり得ますから,上の定理は成立しません.
存在命題の証明あるあるなのですが,これも至極当たり前に感じてしまいますね.
よく出てくるのはグラフの交点=連立方程式の解の存在です.
二次方程式の解の配置では馴染み深いはず.
例題
絶対値が1の数は$\pm 1$です.解の配置でまず考えなくてはならないのは端点における値
今回で言うと$f(-1),\,f(1)$です.計算してみると
$f(1)=a-b+c$
$f(1)=a+b+c$
です.与えられた条件よりこれらが負であることが分かります.最高次係数は正なので,グラフの概形は以下のよう.
二次関数なので,$x$をずっと小さくしたりずっと大きくすれば正の値になるはず.
マイナスとプラスを連続的に動くためにはその境界である$x$軸を通らなければなりません ←中間値の定理
よって$-1$未満と$1$より大きいところに解が出てくることがわかりました.
厳密に答案を書くなら,見つけた解以外には存在しないことに言及しておきましょう.
このように,「異符号の間を連続に動けば0を通る」の形で解の存在範囲を定めることが多いです.まとめておくと
- $f(a)\cdot f(b)<0$
↓
$a$と$b$の間に$f(x)=0$の解が少なくとも1つ存在 - $f(a)\cdot f(b)<0$に加えて$y=f(x)$が単調な関数
↓
$a$と$b$の間に$f(x)=0$の解が唯1つ存在
これを覚えておけば一旦okです.単調なら存在を強めて「唯一」と言えることも知っておきましょう.数Ⅲでよく問われます.
例題解答
$f(1)=a-b+c<0$
$f(1)=a+b+c<0$
である.$a>0$より下に凸の放物線であるから,グラフの概形は以下のようになる.
ここで,$x$が十分に小さい値で$f(x)>0$,$x$が十分に大きい値で$f(x)>0$となり,$y=f(x)$は連続関数であるから,$x<-1$と$x>1$の範囲にそれぞれ少なくとも1解存在する.
また,二次方程式の解は高々2個であるため,上記以外の解は存在せず,題意は示された.
平均値の定理(数Ⅲ)
平均値の定理は,特に微分係数に関する存在証明で用います.
と言う定理です.証明は「ロルの定理」を用いますが,図を見ればなんとなく正しいことは分かると思います.
正直,存在証明の問題よりも,極限や不等式の証明等でお目にかかることが多いですね.
覚えておきたいのは
関数の差の形$f(b)-f(a)$
を見たときに平均値の定理の考えると言うこと.証明も含めて,詳しい話はまた別の機会にしましょう.
部屋割り論法
有限個に分類できるような集合に対する存在命題で用います.
$n$個の「部屋」に$n+1$個の「物」があれば,同じ「部屋」に分類される「物」が少なくとも$1$組存在する
と言うことで,これも数学というよりは当たり前の論理でしょう.
わかりづらければ少ない数で考えてみてください.
3つの巣に4羽の鳩が入ろうとすると,全員がシングルルームで快適に寛ぐことができなさそう,という訳ですね.
頻出の2テーマを押さえておけば,入試に関しては十分と言えるでしょう.
剰余
剰余系は整数全体を有限個の集合に分けられる点で優れています.部屋割り論法において最も頻度が高く,相性もよいです.
例)$5$個の数の中から,その差が$4$で割り切れるような$2$数を選ぶことができる
「部屋」:$4$で割った余り$4$種類
「物」:$5$個の数
距離
距離を有限個区間に区切って,二点間の距離について論じる問題が散見されます.
例)2m幅の道に3本の木を植えると,2本の差が1m以内の木が存在する
「部屋」: 区間$0\leq x<1,\,1\leq x\leq2$の2つ
「物」:3本の木
以下の例題にチャレンジしてみてください.
例題
(1)空間内に互いに異なる格子点を9個とる.このとき,中点も格子点となるような2点が存在することを示せ.ただし,格子点とは$x,\,y,\,z$座標全てが整数であるような点を指す.
(2)$2n$個の自然数の中から$n+1$個を選ぶとき,その中に連続する2個の数が必ず含まれることを示せ.
「部屋割り論法をいつ使うのか」と聞かれるとはっきり答えるのはなかなか難しいです.
存在命題と有限集合(有限個の要素)が合わさったときに使えるか試してみましょう.
多くの問題において,「物」の数は与えられています.
(1)なら,「9点」選ぶ訳ですから,もし部屋割り論法を用いるとすれば,「部屋」の数は$9-1=8$個以下でなければなりません.
中点は「足して2で割る」訳ですから,座標が2で割れるか(つまり偶奇)が問題になりますね.
$x,\,y,\,z$の偶奇がすべて一致するような組が存在すれば良いので…これで8個の部屋が作れたでしょうか.
(2)も同様,「$n+1$個」選ぶ訳ですから,もし部屋割り論法を用いるとすれば,「部屋」の数は$n+1-1=n$個以下です.
$n$個,と言われると(具体的な数値ではないので)難しく感じるかもしれません.少し実験してみましょう.
\[1,\,3,\,\cdots,\,2n-1\]
とできるだけ連続整数とならないように数を選ぶと,これで$n-1$個です.
あと一つはどうしても偶数から選ぶ必要が出てきますね.ここで連続なとこが生まれてしまいます.
では,部屋はどのように作ればいいでしょう.$2n$個の数を$n$個の部屋に分けることと,上で実験したことを考え合わされば分かるはずです.
例題解答
(1)
$ (x,\,y,\,z) $のそれぞれの座標が偶奇いずれであるか考えると,その場合の数は,$2^3=8$通り.
9点選ぶと,その中に$x,\,y,\,z$すべてについて偶奇が一致する2点が存在し,その中点は格子点であるため題意は示された.
(2)
$2n$個の数を,
\[(1,\,2),\,(3,\,4),\,\cdots,\,(2n-1,2n)\]
という$n$個の組に分ける.$n+1$個選ぶと,同じ組に属する2数が存在し,その2数は連続しているため題意は示された.
まとめ
- 具体的に要素を挙げる
→1つでも当てはまるものを見つければ良い - 中間値の定理
→連続関数のとき - 平均値の定理
→微分係数が関与するとき - 部屋割り論法
→有限に分類できるものが関与するとき(特に「剰余」「距離」) - 背理法
の5通りの方法を考える.
①:具体的に見つけてくる
②-④:(正確な場所はわからないけど)どこかに存在することは分かる
という大まかな2通りに分けられていることを理解しておきましょう.